コラム

胡蝶蘭は株分けできる?増やしたい人が知っておきたい高芽の取り方と育て方

胡蝶蘭を何年か育てていると、「この1鉢を株分けして増やせたら」と思う日が来ます。
佐久間彩子です。長野県の農業高校で25年、園芸科の教員をしていました。
結論から言うと、胡蝶蘭は株分けに向きません。増やすなら、花茎にできる「高芽」を切り取って植えるのが現実的です。
高芽の見つけ方から取り方、その後の育て方までお話しします。

胡蝶蘭が株分けに向かない理由

上へ伸びる性質で、株が増えにくい

NHK出版の「みんなの趣味の園芸」は、コチョウランを「わき芽をあまり吹かず、ふやしにくい種類」と説明しています。
ワシントン大学ミラー図書館のページに載っている洋蘭生産者の解説でも、胡蝶蘭は単茎性で、茎を上へ上へと伸ばし続ける植物とされています。

一本の茎で伸びていくので、株元が横へ広がって数が増えるわけではありません。
ハサミで割って増やす、という発想が合わない理由はここにあります。
無理に割れば、増えるどころか親株まで傷めてしまいます。

まれにわき芽で分けられることもある

NHKの解説には、まれに出てくるわき芽が大きくなったら分ける、という方法も書かれています。
ただ、これは出るのを待つしかありません。
株元に太いわき芽を見つけたら幸運、くらいの気持ちでいるのがちょうどいいと思います。

増やし方は「高芽」が現実的

高芽とは、花茎に育つ小さな株のことです。
NHKは「花茎に高芽ができたときに根が伸びてから切り取り植えます」と案内しています。
2つの方法を並べると、次のようになります。

増やし方使う部分出会える機会
株分け株元に出たわき芽まれにしかない
高芽の切り取り花茎の節にできた高芽花が終わったあとに出ることがある

わき芽は待つしかありませんが、高芽は花のあとに花茎を観察すれば手がかりがあります。
そのぶん、狙って取り組みやすい方法です。

高芽の見つけ方と、花茎を切る前の分かれ道

花茎の節から出る小さな株

米国蘭協会(AOS)によると、高芽は英語で「keiki(ケイキ)」といい、ハワイ語で「赤ちゃん」を意味します。
最初は小さく、やがて葉が数枚出て、そのあとで根が伸びてきます。
花芽と見分けにくい時期もありますが、葉が開いて根が出てくれば高芽です。

農業高校の温室で、花が終わった胡蝶蘭の花茎に小さな葉が出ているのを見つけた生徒が、「先生、これ病気ですか」と駆け寄ってきたことがありました。
病気ではなく、親株がつくった小さな分身だと話すと、目を丸くしていたのを覚えています。

二度咲きを狙うか、高芽を待つか

花が終わったあと、花茎をどう扱うか。ここが分かれ道です。
NHKによると、花が半分ほど咲き終わったら花茎を切ります。

株が大きく葉がしっかりしていれば、下から2〜3節を残して切ると、残った節からまた花芽が伸びます。
葉が少なく垂れているような弱った株は、つけ根から切って株を休ませます。
高芽は花茎の節から出てくるので、根元まで切ってしまえば出番がありません。
株の状態別に整理すると、こうなります。

株の状態花茎の扱い節から期待できること
大きくて葉がしっかりしている下から2〜3節を残して切る花芽(二度咲き)か、高芽
葉が少ない、垂れているつけ根から切る株の回復を優先

二度咲きの切り方は、「胡蝶蘭は難しい」は嘘!初心者が最初に知るべき育成の鉄則でくわしく書きました。
節にひそむ芽は、花芽になるか高芽になるか、どちらか一方だと考えてください。

高芽を促したいときのひと工夫

ミラー図書館が紹介する生産者の解説では、最後の花が落ちたあとに節の少し上で花茎を切り、明るさをやや落とした場所へ移すと、たいていは休眠していた芽から新しい株が動き出すとされています。
もう一度花を咲かせたいだけなら、同じように切っても株は動かさない、とも書かれています。

ただし、必ず高芽が出るわけではありません。
私は「出たらもうけもの」くらいの気持ちで構え、出なければ二度咲きを楽しむことにしています。

高芽の取り方と切り離す時期

根が出てから切る

NHKは、高芽は根が伸びてから切り取って植える、としています。
目安の数字は資料によって少しずつ違います。

  • ミラー図書館の解説では、根が2〜3本出たとき
  • AOSでは、根が2インチ(約5cm)ほどに伸びたとき
  • 私はそこに、葉が2〜3枚ついていることも条件にしています

一度、根が出る前に「そろそろいいかしら」と切り取った高芽を植えたことがあります。
数週間でしぼんでしまい、待った時間の分だけ確実に育つのだと痛感しました。
小さな高芽ほど、切り離すのを急がないでください。

迷ったときは、次の表で判断しています。

高芽の状態判断
葉だけで、根がまだ見えない切らずに待つ
根が出始めたばかりで、本数も長さも足りないもう少し待つ
根が2〜3本あり、5cm前後に伸びて、葉が2〜3枚ある切り離してよい
根は十分だが、季節が秋から冬で暖房のない部屋春まで親株につけておく

早く切って失うくらいなら、待って少し手間が増えるほうがずっとましです。
私は、迷ったら待つことにしています。

季節は植え替えの適期に合わせる

NHKによると、コチョウランの植え替えは5月上旬から6月下旬が一番の適期です。
真冬でも室温が20℃程度あれば、季節を問わず植え替えられるとも書かれています。

高芽の切り離しは、小さな株を新しい鉢に植える作業です。
私は植え替えの適期に合わせています。
秋から冬に根が育ってしまったときは、暖房のない部屋なら、春まで親株につけたまま待つほうが安全だと考えています。

切り取りの手順

AOSは、蘭はウイルスにかかりやすいため、切るときは必ず消毒した道具を使うよう注意しています。
ミラー図書館の解説には、高芽と茎のあいだを切る方法と、高芽のつけ根の上下で花茎を切る方法が紹介されています。
私は後者で、茎を少し付けたまま取っています。

  1. 刃物(カッターやハサミ)をアルコールなどで消毒します。
  2. 水苔を水でよく戻し、軽く絞って、植える鉢と一緒に手元に用意します。
  3. 高芽の根を折らないよう、葉のつけ根を軽く支えます。
  4. 高芽のつけ根の上下で花茎を切り、茎を少し付けたまま切り取ります。
  5. 親株の花茎は、高芽を取ったあとにつけ根から切って、株を休ませます。

この記事では、親株の茎を切る胴切りという方法は扱いません。
大がかりな作業になるので、まずは高芽から試してみてください。

切り離したあとの育て方

植え込みは小さな鉢と水苔で

NHKは、植え込み材として水ゴケ、洋ラン用バーク、ヤシ殻チップを挙げています。
水ゴケは素焼き鉢に、バークとヤシ殻チップはプラスチック鉢に植えると案内しています。

高芽は根が短くて本数も少ないので、私は小さな素焼き鉢に水苔で植えます。
根のまわりを水苔でふんわり包み、詰めすぎないようにするのがコツです。
水やりについて、NHKは、与えるときはたっぷりと、次は植え込み材料がやや乾くまで待つのが基本だと説明しています。
植えた直後にたっぷり与えたら、あとは水苔の表面がやや乾くまで待ちましょう。

置き場所と温度

NHKによると、胡蝶蘭はやや暖かめの18℃以上を好み、強い日光を嫌います。
冬は室内の、直射日光が当たらないやや明るい場所が向いています。

高芽から育てた小さな苗は、親株より乾きやすく、寒さや暑さの影響も受けやすいと感じています。
置き場所は次のように決めています。

  • 窓辺の直射日光は避け、レースのカーテン越しくらいの明るさにする
  • 冬は夜間も18℃を下回らない部屋に置く
  • 鉢が小さいので、水苔が乾いていないか毎日のぞく

花が咲くまでの時間

AOSによると、育て方が合えば1年ほどで花が咲くこともありますが、小さな高芽は開花できる大きさになるまで2〜3年かかることもあります。
高芽は親株の一部から育つので、咲くのは親株と同じ性質の花になるはずです。

すぐに花は見られなくても、葉が1枚ずつ増え、根が鉢の中に回っていく様子は、なかなか見ごたえがあります。
教員時代、生徒たちと一鉢の高芽を毎週観察していたのも、いい思い出です。

親株のその後と、高芽が出なかったとき

高芽を取ったあとの親株は、花茎をつけ根から切って休ませ、ふだんの管理に戻します。
NHKは、葉が少なく弱っている株は花茎をつけ根から切って養生させるとしていますので、体力を使った親株には特に大切な手入れです。
植え替えは2年に1回程度、5月上旬から6月下旬に行うのが目安です。

節を見守っても、高芽が出ないことは珍しくありません。
そのときは花茎を切り、株を休ませてください。
高芽が出るかどうかは株しだいなので、出なかったことを失敗と考える必要はありません。
親株が元気に育っていれば、次の花のあとにまた機会がめぐってきます。

まとめ

胡蝶蘭を増やすときの要点は、次のとおりです。

  • 胡蝶蘭は株分けに向かない。増やすなら花茎の高芽を使う
  • 花が終わっても、花茎を根元まで切らずに様子を見る
  • 根が2〜3本、長さ5cm前後、葉が2〜3枚そろってから切り離す
  • 消毒した刃物を使い、小さな鉢に水苔で植える
  • 置き場所は直射日光を避け、18℃以上を保つ

生徒たちに、「待つのも栽培の仕事だよ」とよく話していました。
高芽は、その言葉がいちばん当てはまる作業です。
今年の花が終わったら、花茎をすぐには切らず、節をひとつずつ見てみてください。
小さな葉を見つけた日から、あなたの胡蝶蘭との新しい物語が始まります。